身近なようで意外と知らない油のはなし。
第一回のコラムではオリーブオイルや菜種油などそれぞれの油の特徴、第二回のコラムではオメガ3やトランス脂肪酸など油の基本的な構造とそれらがどのように分類されているのかを化学的に学びました。
今回のコラムでは各脂肪酸の栄養学的な面をご紹介していきます!
3. 揚げ物に向いている油はどれ?知っておきたい油の栄養学。
それぞれの油の特徴や脂の構造の違いを学んだからには、料理に使う際に使える知識もつけておきたいですよね!
実際には各油は色々な脂肪酸が混ざって含まれているので、ここでご紹介する油を摂取しておけば大丈夫、というものではないですが、一時期話題になったEPAやDHAの違いなどについてもご紹介しているので今回のコラムをお楽みいただければ幸いです。
内容は最後に表にしてまとめているので、そちらも合わせてご参照くださいね!
I. オメガ3系脂肪酸
積極的に摂取していきたい脂肪酸たちです。
1. α-リノレン酸(Linolenic acid)
摂取することが必須の栄養素(必須脂肪酸)で、体内でDHAやEPAを生産するための原料となります。(DHA、EPAの働きについては下記参照)
α-リノレン酸は酸化しやすいため加熱調理(揚げ物、炒め物など) には向きません。
α-リノレン酸が多く含まれる油はサラダのドレッシングなど加熱せずに使用するのがおすすめです。
★多く含まれる食品:エゴマ油、アマニ油など
2. 頭がよくなる!?ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acis:DHA)
必須脂肪酸です。
α-リノレン酸を原料に体内で生成することができますが、EPA同様α-リノレン酸の10~15%程度しか変換されません。
DHAは脳や網膜に多く含まれ、特に脳内ではもっとも豊富に存在する脂肪酸です。EPAは脳内でDHAに変換されます。
基礎研究では、LDL(悪玉)コレステロール値の低下、中性脂肪値の低下、血圧降下、さらに記憶力の向上などが示唆されていることから、「頭が良くなる栄養素」として話題になりました。
妊婦が魚類を多く摂取した場合、母乳のDHA量が多くなり、さらに魚類を多く摂取した妊婦の産後うつ病の有病率が低いという研究結果もあることから、うつ病の予防や治療にDHAをはじめとするオメガ3系脂肪酸の効果が期待されています。
★多く含まれている食品:魚油(ニシン、サバ、イワシ、サンマなど)
3. 血液サラサラ!?エイコサペンタエン酸(Eicosa-Pentaenoic acis:EPA)
必須脂肪酸です。
EPAはα-リノレン酸を原料に体内で生成することができますが、DHA同様α-リノレン酸の10~15%程度しか変換されません。
基礎研究ではEPAによる脂質の代謝、血液凝固の異常症状の改善、血小板凝集の抑制、LDL(悪玉)コレステロール値の低下、中性脂肪値の低下が認められています。
血液凝固や血小板凝集を抑制し血液が固まりにくくなるため、出血のリスク(歯科治療、手術など)がある場合は摂取量に注意します。
この血液を固まりにくくする効果から「血液をサラサラにする栄養素」と認識されるようになりました。
EPAはDHAとはことなり脳内にはほとんど存在しません。
★多く含まれる食品:魚油(ニシン、サバ、イワシなど)、母乳にもわずかに含まれます。
DHAとEPAの違い
EPAはDHAよりも研究の歴史が古く、医薬品のデータが豊富です。
一方でDHAの研究ではEPAも含まれた魚油のデータが使用されているため、純粋なEPAのみの効果がどうか不明な点があります。
EPAは摂取すると血液中で有意な増加が認められますが、DHAは血液中ではほぼ一定量に保たれており増加しにくいという特徴があります。
EPAは高脂血症や動脈硬化症の治療薬に使用されている一方で、DHAは現在治療薬としての使用はありません。
EPAは血液や血管の健康維持に効果を発揮し「血液サラサラ」などの効果が期待できます。
DHAは脳内の構成成分として重要なため、脳の発達や記憶力の向上などの効果が期待できます。
Ⅱ. オメガ6系脂肪酸
現代では摂りすぎの傾向がある脂肪酸です。
4. リノール酸(Linoleic acid)
必須脂肪酸です。
血中コレステロール値を低下させる効果が認められていますが、過剰摂取は肥満やHDL(善玉)コレステロール値の低下に繋がり、動脈硬化や心筋梗塞のリスクとなります。
またリノール酸は酸化されやすいため、有害な過酸化物質を体内で生じやすい脂肪酸です。現在の食生活では過剰摂取になる傾向が強いため注意が必要です。
★多く含まれる食品:サフワラー油、ごま油、大豆油、ヒマワリ油などの植物油(マーガリンやマヨネーズなどを含む)、ピーナッツ、アーモンドなどのナッツ類。
5. γ-リノレン酸(γ-linolenic acid)
リノール酸を原料として体内で生成することができます。オメガ3系脂肪酸のα-リノレン酸の構造異性体です。
正常な皮膚の構造や機能に重要な働きをもちます。
基礎研究では血糖値や血中コレステロール値、血圧を低下させる効果、またアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に効果があると言われており、アトピーの治療に使用されています。
リノール酸の過剰摂取、アルコールの摂取などによりリノール酸からの代謝が急激に減少し体内でのγリノレン酸の濃度が低下してしまうことがある。
★多く含まれる食品:カシスの種子、月見草、母乳など。食物から直接摂取するのが難しいので、リノール酸からの摂取がほとんどです。
Ⅲ. オメガ9系脂肪酸
6. オレイン酸
体内で合成できる脂肪酸です。
HDL(善玉)コレステロールには影響を与えず、LDL(悪玉)コレステロールのみを減少させる効果があります。
オレイン酸は酸化されてにくいため、有害な過酸化物質を体内で生じさせにくい脂肪酸です。
そのため加熱調理(揚げ物、炒め物) に向いています。ただし高カロリーのため過剰摂取には注意が必要です。
★多く含まれている食品:オリーブオイル、菜種油(キャノーラ油)
7. エルカ酸
【身近なようで意外と知らない油のはなし。1】の菜種油の説明で登場したエルカ酸。
エルカ酸の含有量が多い菜種油は、エルカ酸心臓病のリスクを高めるなど身体への害が認められていることから、バイオ燃料などの工業用に使われています。
★多く含まれている食品:(キャノーラ油ではない)菜種油
最後に
加熱(炒め物や揚げ物)に向いているオリーブオイルや菜種(キャノーラ)油、ドレッシングなど非加熱で使用したいエゴマ油、アマニ油、さらに同じ菜種油でもエルカ酸が含まれている菜種油とキャノーラ油では身体への影響には大きな違いがあります。
油を選ぶする際に、頭の片隅でそっとこの知識を思い出して頂けたら幸いです。
今回で【身近なようで意外と知らない油のはなし。】は完結になります。
過去記事も合わせてご覧くださいね!
1. サラダ油は何からできてる?食用植物油を徹底解剖!
2. 飽和脂肪酸?オメガ3?トランス脂肪酸?油の違い、きちんと知ってる?
3. 揚げ物に向いている油はどれ?知っておきたい油の栄養学。
内容を表にまとめているので、箇条書きで覚えたい方はぜひご活用ください。
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